藤沢周平の本

もう、何度目かの「三屋清左衛門残日録」を読み終わるところです。
「私にも藤沢周平は合ってる」というと偉そうだ。藤沢周平は良いなあと
言えば良いわけだ。

 

世の中には様々な趣味嗜好の方がおいでになるわけなので、
藤沢は評価せず、例えば池波正太郎が良いと思う人も居よう。
それで全く問題ないのであるが、良いものに出会ったら良いと言うことが
良いことが広がることにつながるのであれば、ここにも一人、藤沢の良さを
思っている人間がいるよと言いたくなって、書いている。

 

まず 文体が美しい。簡潔で無駄がない。直接に人の性格を言葉で説明せず、
行いと態度を描くことで読者が人物をとらえる様にしているのが好ましい。
江戸時代の人々の倫理観がゆかしい。そのまま現代に適用するのは無理かも
しれないが、時を経て我々が失ったものがそこにある。
登場人物の中には悪事を構えている者も出てくるが、それさえも
自分にもそんな面はあることに気づかされる。

 

自然を描写することが比較的多い。それがステーキについてくるサラダの
様に、清涼感をもたらす。描かれている情景はみごとに美しい。
それは何ら特別な情景なのではない。誰しも覚えのある、例えば夕焼けを見て
「ほら見て、夕焼けが今良いところ」という場合の様に共感を呼ぶのである。

 

読みかけでいる日には、作品中の人物が頭の中に住んでいて、生きている。
寝しなに今日も昨日の続きが読めると思うと、幸せな気持ちになるのである。